• ファスティング基礎知識
  • 「ファスティングを始めるための基礎知識をわかりやすく解説。初心者向けに、準備方法や効果、注意点を詳しく紹介します。

認知症予防におけるファスティングの役割

認知症は、超高齢化社会を迎えた日本にとっては、とても重要な社会問題です。主にアルツハイマー病などの神経変性疾患が原因となり、予防や早期発見について注目が集まっています。

こうした認知症対策の1つとして、ファスティングが認知症予防にどのように寄与するのか、注目されています。現時点では動物実験レベルの研究が多いですが、将来的には人への応用も期待されています[1] 


この記事の監修ドクター

名前 勝木 将人(かつき まさひと)

東北大学を卒業し、現在は長岡技術科学大学で准教授を務める他、燕三条すごろ脳脊髄クリニックで脳神経外科医として臨床を行う。専門は頭痛やデータサイエンス、AIで、メディカルAI公認資格と脳神経外科専門医の資格を持つ。


認知症とは

認知症は、脳内でのアミロイドβやタウたんぱく質の蓄積が原因となり、神経細胞の破壊を引き起こすことが知られています。これにより、記憶力や思考力が低下し、認知機能が衰えるのです。また、脳の血流や栄養供給が低下すると、神経細胞の機能が悪化し、認知症を発症しやすくなります。

認知症は、脳の神経細胞が障害され、記憶や判断力、理解力などの認知機能が低下し、日常生活に支障をきたす状態を指します。 軽度認知障害(MCI)は、認知症の前段階とされ、早期の介入が重要です。 ​

認知症の原因

認知症の原因は多岐にわたり、以下のような疾患が挙げられます。​

・アルツハイマー型認知症:​脳内にアミロイドβが蓄積し、神経細胞が障害される。

・血管性認知症:​脳の血管障害(脳梗塞や脳出血など)によるもの。

・レビー小体型認知症:​レビー小体という異常なたんぱく質の蓄積が特徴。

・前頭側頭型認知症:​前頭葉や側頭葉の萎縮が進行する。

・正常圧水頭症:​脳脊髄液の流れが悪くなることで発症する。

日本における認知症の現状

厚生労働省によると、2025年には65歳以上の高齢者の約20%にあたる約700万人が認知症を患うと推計されています。

また、九州大学の二宮利治教授が代表者を務める厚生労働省研究班が2024年に発表した調査によると、認知症の患者数が2030年に推計523万人にのぼることが明らかになっています。これは高齢者の14%を占める数字です。また、高齢化の進展に伴い、2050年には587万人、2060年には645万人と増加傾向が続くことも示されました。

認知症の予備軍とされる軽度認知障害(MCI)の患者数も2030年には593万人、2060年には632万人まで増えると推計されています。

この調査では、MCIを合わせた認知症患者数は2030年には1100万人を超えることになり、日本全体で認知症を予防・早期対応をすることが重要であることが分かると思います。

認知症の治療薬

認知症の治療は、薬物療法と非薬物療法(生活習慣の改善や環境調整など)を組み合わせて行います。​アルツハイマー型認知症では、​アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジルなど)やNMDA受容体拮抗薬(メマンチンなど)が使用されます。

こうした薬物治療で注目が集まっているのが、アミロイドβ抗体治療薬です。2023年12月には、エーザイなどが開発した「レカネマブ」が発売され、2024年11月にはイーライリリーが開発した「ドナネマブ」も承認されました。 ​

ファスティングによる認知機能の向上

ファスティングが認知症対策に有効であると期待される[2] 理由は、主に以下の生理的なメカニズムに基づいています。

オートファジーの活性化

ファスティングによって誘導されるオートファジー(細胞の自己修復メカニズム)は、脳内の老廃物や異常なタンパク質の蓄積を除去する役割を果たします。認知症、特にアルツハイマー病は、アミロイドβやタウたんぱく質が脳内に蓄積することが原因となるため、オートファジーによってこれらの異常なタンパク質が分解されることで、認知症のリスクが低減する可能性があります。

インスリン感受性の向上

ファスティングはインスリン感受性を改善し、インスリン抵抗性を減少させることが知られています。研究では、インスリン感受性が認知機能、特に記憶機能に関連していることが示されています。​


神経保護作用

ファスティングは、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病などの神経変性疾患において、神経細胞の保護作用を示す可能性があります。​これらの効果は、エネルギー代謝の改善や酸化ストレスの低減、ミトコンドリア機能の向上など、細胞の適応的ストレス応答を活性化することによって実現されると考えられています。


炎症の抑制

慢性的な炎症は、認知症やアルツハイマー病のリスクを高める要因の一つです。ファスティングは炎症を抑える作用があり、特にファスティング後に炎症性サイトカインの分泌が抑制されることが示されています。炎症が脳に及ぼすダメージを軽減することで、認知症の進行を防ぐ可能性があります。


ミトコンドリアの機能改善

ファスティングによって、ミトコンドリアの機能が改善され、脳のエネルギー供給が効率的になります。ミトコンドリアは細胞のエネルギー工場であり、認知症患者ではしばしばその機能が低下しています。ファスティングによりミトコンドリアの数が増加し、エネルギー供給の効率が向上することで、認知症の予防に寄与する可能性があります。

認知症予防におけるファスティング導入の考え方

ファスティングが認知機能に及ぼす影響については、主に動物モデルや基礎研究で有望な報告がなされていますが、ヒトにおける明確な効果を示す大規模な臨床研究は十分に蓄積されていません。そのため、現時点ではあくまで「可能性のひとつ」として認識し、慎重に取り組むことが重要です。

特に若年〜中年層(20代〜40代)においては、比較的体力があり、代謝も安定しているため、正しい知識のもとで無理のない範囲のファスティングを生活習慣の一部として取り入れることは、全身の健康維持に寄与する可能性があります。こうしたライフスタイルの工夫が将来的な脳の健康にどのように関与するかについては、今後の研究の進展が待たれます。

一方で、50代以降の方がファスティングを取り入れる場合には、加齢に伴う体力や栄養状態の変化に十分配慮する必要があります。過度な食事制限はかえって健康を損なう可能性があるため、導入する際には主治医と相談し、個々の健康状態に合わせて検討することが望ましいとされます。

ファスティングの基本的な実践方法と留意点

現段階で得られている知見からは、ファスティングが認知症予防に寄与する可能性を示唆する報告もありますが、これをもって直接的な予防効果があると断定することはできません。そのため、関心のある方がファスティングに取り組む場合には、健康維持を目的とした生活習慣の一環として、過度にならない範囲で実践することが大切です。

ファスティングに初めて取り組む際には、一般的には「16時間ファスティング」(いわゆる時間制限食)が比較的実践しやすいとされています。ただし、すべての人に適しているわけではなく、持病の有無やライフスタイルに応じた判断が求められます。

また、ファスティング中は水分や電解質、必要に応じてビタミン・ミネラルの摂取にも留意し、体調の変化に敏感になることが重要です。医師の監修のもとで実施することで、より安全に取り組むことができます。(参考:「16時間断食とは?メリット・デメリットややり方を詳しく解説」

まとめ

ファスティングは、認知症予防において重要な役割を果たす可能性があります。認知機能を高めるために、生活習慣の一部にファスティングを取り入れてみてはいかがでしょうか?

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