疲労が溜まった時にはファスティングが効果的?最新論文が示す疲労解決方法

現代社会では、仕事や家庭のストレス、長時間の労働、睡眠不足などが原因で多くの人々が疲労に悩まされています。こうした慢性的な疲労は、仕事の効率や生活の質に悪影響を与えるだけでなく、健康にも深刻な影響を及ぼすことが知られています。
こうした慢性疲労の解消にファスティングが役立つ可能性があることをご存じでしょうか?この記事では、慢性疲労とファスティングの関係について説明します。
では、ファスティングが睡眠に与える影響やその理由、実際にどのように実践すれば良いかについて詳しく解説します。
この記事の監修ドクター

名前 本多 洋介(ほんだ ようすけ)
所属 群馬大学医学部卒業。伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院(いずれも循環器内科)を経て、Myクリニック本多内科医院院長。
総合内科専門医、循環器内科専門医、日本心血管インターベンション学会専門医、軽カテーテル的大動脈弁植え込み術指導医(Sapienシリーズ、Evolutシリーズ)の資格を持つ。
疲労とは?
運動や仕事をすると「疲れた」と感じることがあります。こうした反応は、痛みや発熱などと同じく、人間が活動する上でのアラート機能の1種です。こうした反応は専門的には恒常性(ホメオスタシス)と呼ばれ、人間が生命を維持するために身体の状態や機能を一定に保とうとする機能として知られています。
疲労の定義
日本疲労学会の抗疲労臨床評価ガイドライン によると、日常生活により問題となる疲労(以下、日常疲労)とは、「日常生活において慢性的な疲労もしくは、疲労と関連の深い健康の問題を抱えている、もしくは、過重労働などの状況にあることとする」と定義されています。こうした疲労によって、思考能力の低下や、刺激に対する反応の低下、注意力の低下、注意散漫、動作緩慢、行動量の低下、眼のかすみ、頭痛、肩こり、腰痛などがみられます。
疲労の原因
疲労を感じる要因は、1つではありません。代表的な疲労の原因をご紹介します。
(1) 身体的疲労
身体的疲労は、過剰な肉体的労働や運動、長時間にわたる体力的な負担が原因で発生します。特に次のような要因が挙げられます。
・筋肉の疲労
過度な運動や重い物を持つことによって筋肉が疲労し、乳酸などの疲労物質が蓄積します。これにより筋肉が酸欠状態になり、正常な機能が阻害されるため、痛みや張り、動きにくさが生じます。
・ エネルギー不足
身体が十分な栄養を摂取できていない場合、エネルギー源であるグリコーゲンや脂肪が不足します。これにより、体はエネルギーを効率的に利用できず、疲れやすくなります。特に不規則な食生活やダイエットが続くと、エネルギー供給が不安定になり、体が疲れやすくなります。
・ 睡眠不足
睡眠は体力回復に欠かせない重要な時間です。睡眠が不足すると、体内の疲労回復に必要な成長ホルモンやその他の修復ホルモンが十分に分泌されません。これにより、肉体的な回復が遅れ、慢性的な疲労が蓄積します。
・ 自律神経の乱れ
身体が過度に疲れると、交感神経と副交感神経のバランスが崩れます。これにより体が常に緊張状態となり、疲労感が長引くことがあります。特に、ストレスや過労が続くと、交感神経優位の状態が続き、体がリラックスできないため、疲労が解消されにくくなります。
(2) 精神的疲労
精神的疲労は、心の疲れやストレスから生じるもので、身体的な疲れと同様に生活の質に大きな影響を与えます。精神的な疲労は、以下のような要因が原因となります。
・ 精神的ストレス
職場や家庭でのプレッシャー、人間関係のトラブル、仕事の締切などが長期間続くと、精神的に疲れやすくなります。ストレスホルモンであるコルチゾールが過剰に分泌され、体が常にストレス状態にさらされることになります。この状態が続くと、心身に大きな負担を与え、慢性的な疲労につながります。
・ メンタルヘルスの問題
うつ病や不安障害など、精神的な健康問題も疲労感を引き起こします。特にうつ病では、身体的なエネルギーが低下し、日常的な活動に対して無気力感や倦怠感を感じやすくなります。心の健康が損なわれると、体も十分に回復できなくなり、疲労が解消されません。
(3) 環境的要因
環境が疲労感に与える影響は多く、以下の要素が大きな役割を果たします。
・仕事環境
長時間のデスクワークやコンピュータ作業など、姿勢が悪い環境で作業を続けることが身体的な疲労を引き起こします。また、過度の集中やプレッシャーも精神的な負担となり、疲れやすくなります。
・食環境
栄養バランスが偏った食事や過剰なカフェイン摂取、不規則な食生活も疲労を引き起こす原因となります。特にジャンクフードや糖分の多い食事は、血糖値の乱高下を引き起こし、エネルギー供給が不安定になるため、疲れを感じやすくなります。
疲労が長期間続くと?

慢性的な疲労感が休養しても回復せず6ヶ月以上の長期にわたって続く状態になると、慢性疲労症候群という疾患として扱われます。疲れの他に発熱やリンパ節腫大、咽頭痛などの感染症のような症状や、頭痛、筋肉痛、関節痛、脱力感などの膠原病様症状、睡眠障害、思考力低下、抑うつ、不安などの精神・神経症様症状などの症状が現れます。
ファスティングによる体内リセット
ファスティングは、一定の期間食事を控えることによって消化器系を休め、体内の代謝やホルモンバランスをリセットすることができます。数日から1週間といった長期間のファスティングだけではなく、16時間ファスティングなど手軽な方法もあり、注目が集まっています。(参考:「16時間断食とは?メリット・デメリットややり方を詳しく解説」)
また、ファスティングにはオートファジーという細胞の自己修復機能が活性化される効果があります。オートファジーは、体内で不要な物質を分解し、細胞を再生させる働きです。これにより、疲労の原因となる細胞のダメージが修復され、身体全体のエネルギー効率が改善されます。
ファスティングによる疲労回復のエビデンス
ファスティングと疲労回復に関する学術論文は複数ありますが、この記事では学術誌のNutrientsで2022年に公開された論文を紹介します。
この研究は、ドイツのマインツ大学の研究グループによって実施されました。研究っグループは、3ヶ月間の研究期間中に1日16時間の断食期間を設定した際のQOL、特に疲労への影響を評価することを目的としました。
研究には30人が参加し、すべての参加者は、通常の生活習慣を維持しつつ、週に5日以上16時間の断食を実施しました。その結果、実験期間を通じて疲労が有意に減少したことが明らかになりました。精神的疲労は10.3 ± 3.2から8.4 ± 2.5に減少し、身体的疲労も12.6 ± 3.8から10.7 ± 3.3に減少しました。また、ベースライン時の疲労重症度尺度(FSS)スコアの平均値は3.5 ± 1.2でしたが、3ヶ月後には2.9 ± 1.1に減少したということです。
ファスティングにチャレンジする上で大事なこと

ファスティングを実践する際は、無理のない範囲で行うことが大切です。初めての方は、16時間ファスティングを試してみると良いでしょう。16時間の断食時間を設定し、その間に水分摂取や軽い飲み物を摂ることで、消化器系を休めつつエネルギーを節約できます。疲労回復には、ファスティング後の回復期も大切です。ファスティング後には、軽い食事から始め、徐々に体を慣らしていきましょう。
まとめ
ファスティングを生活に取り入れることで身体がリセットされ、疲労が軽減し、エネルギーを回復する可能性を今回の記事で紹介しました。4月からの新生活で疲れ気味の方は、ファスティングを日常的に取り入れてみてはいかがでしょうか?

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