ファスティングがおなかの健康に与える影響とは?専門医がメリットを詳しく解説

ファスティングを実践する人の中には、腸内環境の改善のために行っている人も多いのではないでしょうか。体重が減るなどのダイエット効果以外にも、おなかがスッキリするなど、腸に関する効果も多くの人が感じています。

今回の記事では、お腹の健康にファスティングが与える影響について、千葉・流山市の南流山内視鏡おなかクリニック院長の、前田孝文先生にお話を伺いました。


前田孝文(南流山内視鏡おなかクリニック)

京都府立医科大学医学部医学科卒業後、京都府立医科大学附属病院や自治医科大学大学院、University of Southern California、辻仲病院柏の葉などを経て、南流山内視鏡おなかクリニックを開業。日本外科学会専門医・指導医、日本消化器外科学会 専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会 専門医・指導医、日本大腸肛門病学会 専門医・指導医、日本内視鏡外科学会 技術認定医、消化器癌外科治療認定医、身体障碍者福祉法指定医の資格を持つ。著書は「男の便秘 女の便秘」。


「おなかの専門医」から見たファスティング

現在日本人は食べ過ぎ

(インタビューに答える前田先生)

Q 前田先生、お忙しい中お時間をいただきありがとうございます!本日はファスティングとおなかの関係についてお話を伺わせていただきます。先生のクリニックでは医食同源など医学的な治療以外にも意識を向けていらっしゃいますが、ファスティングについてはどう捉えていらっしゃるでしょうか?

前田 現代の日本人は肥満傾向の方が多く、基本的に食べ過ぎです。ファスティングを行うことで食事に対する考え方を見つめなおす機会になると思います。ファスティング期間中に食事を制限するだけでなく、その後の食生活も見直すことができるのであれば、食事量が多く必要以上にエネルギー摂取をしている方がファスティングを試みることは肯定的に捉えています。

Q 現代の日本人は食べ過ぎ、というお話はよく聞きますね。ファスティングを実施することでどのような変化が起こるか教えてください。

前田 ファスティングよって生じる腸内環境の変化について、消化管ホルモン「モチリン」が多く分泌されることと、「オートファジー」の働きが活性化されることがポイントですね。

消化管ホルモン「モチリン」とは

Q 「モチリン」と「オートファジー」がポイントなのですね。「モチリン」はどういったものなのでしょうか?

前田 「モチリン」はホルモンの一種で、空腹状態になると十二指腸や小腸から分泌され、胃や十二指腸、大腸の収縮運動を促します。この働きによって食物のカスが大腸に効率的に運ばれます。食べかすを排泄するよう働きかけることで、次の食事で摂取した栄養を効率よく吸収させようとする仕組みです。モチリンは空腹時間が6時間以上続くと多く分泌されます。

夕食を早めに済ませて夜間に空腹状態を長く続くと、寝ている間にしっかりモチリンが分泌されます。そうすると腸管の蠕動(ぜんどう)運動が高まり、食べかすが大腸まで効率よく運ばれるようになります。その結果、翌朝に便意が生じやすくなり、すっきりと排便しやすくなります。

なお、モチリンの作用によって胃が空になると、次に「グレリン」というホルモンが分泌されます。グレリンには食欲を増進したり、成長ホルモンの分泌を刺激したりする作用があります。成長ホルモンには炭水化物やタンパク質、脂質の代謝を促進することや、タンパク質の合成を促し筋肉を成長させること、そして脂肪組織から遊離脂肪酸という形でエネルギーを放出する作用もあります。したがって、一日の中でしっかりと空腹状態をつくりモチリンを分泌させる、さらにはグレリンの分泌を介して成長ホルモンの刺激を促すことは、健康増進に役立つと言えるでしょう。

「オートファジー」とは

Q なるほど、空腹をきっかけに出てくる2つのホルモンが重要な役割をしているんですね。次に、ファスティングをしているとよく聞く「オートファジー」について改めて教えてください。

(インタビューに答える前田先生)

前田 空腹の時間が16時間を経過すると、「オートファジー」の働きが活発になっていきます。これによって腸内環境を改善すると考えられています。オートファジーとはもともと人間を含むすべての動物に備わった仕組みで、古くなった細胞内の物質を分解し、新しい状態に保つ働きのことです。オートファジーによって毎日少しずつ、体の中の古い組織が新しい組織に作り替えられ機能が維持されます。

オートファジーは、飢餓状態で活発に働きます。古い組織を分解し、その中に含まれている栄養を利用するからだと考えられています。また、細胞内の組織を作り替える際に、有害な物質を排除することも知られています。オートファジーの働きが低下することは、糖尿病やがん、心血管疾患など、さまざまな病気の進展に関連することもわかっています。

腸内環境とオートファジーの関連についてもいくつかのことがわかっています。腸の中には食事などで体の外から入った有害物質や細菌など、人体に悪影響を与える様々な物質が存在します。これらが腸の壁をすり抜けて血液や腸の外の細胞などに入り込まないようなバリア機能が備わっています。動物実験では、オートファジーの働きが低下すると、腸管のバリア機能が弱くなることや、身体の免疫システムが、普段は身体に悪い影響を及ぼさない常在菌に対して、病原菌に対するように反応することから、炎症反応が生じることがわかっています。

逆にオートファジーの働きが上がると、腸管バリア機能が強化され、また炎症を抑える働きも上がることがわかっています。

つまりファスティングによってオートファジーが活性化され、腸管のバリア機能強化、抗炎症効果が強まると考えられています。

Q オートファジーによって腸管のバリア機能が上がることが期待できそうですね。先生のクリニックではおなかの悩みを抱える患者が多く訪れますが、患者の方から腸内環境の改善のために、ファスティングについて相談を受けることはあるでしょうか?

前田 腸内環境改善のためにファスティングを行うか否かの相談を受けたことはありませんね。ただ私の方から、肥満をベースとして高血圧や糖尿病など生活習慣病を持っている方にファスティングをすすめたことはあります。また、入院によって絶食状態となった後に便通が良くなったという患者さんの体験を聞いたことがあります。

Q なるほど。そうすると、便通の改善にファスティングは有効と考えられるのでしょうか?上手にファスティングを通じて便通改善を測る場合は、どのようなことに気をつければいいでしょうか?

前田 ファスティングを行うと、モチリンやオートファジーの働きで腸内環境が改善し、蠕動運動がよくなるかもしれませんが、一方で便の材料となる食物残渣が減るため、便の量が減ります。ですので、便通を改善するとは一概に言えず、便通改善目的でファスティングをすすめることはしていません。

大腸内視鏡検査後は下剤服用によって腸の中が空となり、ファスティング後と類似した環境になると思いますが、大腸内視鏡検査後の患者さんで便通が改善することは時々経験します。腸内細菌の分布が変わるためなのか、一度腸内環境がリセットされ、腸管運動がよくなるのではないかと考えています。便秘改善目的でファスティングを行うことを推奨はしませんが、結果として良くなることはあると思います。

Q 前田先生のご専門の立場から、ファスティングのメリットと注意点についてはどのようにお考えでしょうか?

(インタビューに答える前田先生)

前田 現代の食生活は基本的に摂取カロリー過剰です。肥満者の割合も年々増えています。食生活のあり方を見直すためにファスティングを行うことは有用だと考えます。

私もファスティングを経験したことがあるのですが、ファスティング後の食事は、素材一つ一つが身体に沁み込む感じがして非常に味わい深く感じました。食事ができることに感謝しながらゆっくりと味わうことができます。時間をかけて食事を摂ることで血糖値の急激な上昇が抑えられ、また必要以上のカロリーを摂ることもなくなるので、食事を楽しむだけでなく身体にも優しい食生活の見直しに役立つと考えます。

例えばスマホを見ながらの、「ながら食べ」は食事をゆっくり味わうことなく、それこそ栄養を補うための「餌」、すなわち「食餌」と言えます。短時間で一気に体内に栄養素が入るため、糖質や脂質の摂取過剰となり、糖尿病や脂質異常を引き起こしやすくなります。

つまり、ファスティングは正しい食生活を送るきっかけを与えてくれると考えています。しかし、ファスティングは体内の活動に必要なエネルギーやタンパク摂取も一時的に制限されます。筋肉が減るため代謝が低下し、太りやすい体質になります。定期的なファスティングのみでダイエットを行うことは要注意で、普段は必要なエネルギーをしっかり摂ることと、代謝を良くするために筋肉量を維持することが大切です。

Q 「ファスティングは正しい食生活を送るきっかけ」ということですね。ちなみに、前田先生はどのようなファスティングを体験したのでしょうか?

前田 ファスティングの指導をプロフェッショナルな仕事にしている方がクリニックの近くにいらっしゃり、ご縁をいただいて5日ファスティングを行いました。

最初に導入食としてスムージーを2日間、ファスティング期は酵素ドリンクのみで過ごすことを4日間、その後回復食としてスムージーを食べつつ徐々に食事を戻していくという流れでした。

1日目2日目はすごいきつかったのですが、3日目は楽になりました。実は元々はファスティング期は3日の予定だったんですが、1日延長して4日にしたくらいです。ファスティング後に体重は4〜5キロ減っていました。

ファスティングを行った際に感じたのは、ファスティングは単なるダイエット目的ではあまり意味がないと思いました。というのも、普段の食生活が変わらないと本当の意味で体が健康になっていかないと思うからです。

普段食べ過ぎている食生活を改めるきっかけとして導入するのは良いと思います。

Q ファスティングをきっかけに生活習慣をよくすることが大事ということですね。

前田 そうですね。先ほども少し述べたのですが、大事にゆっくり食べると咀嚼がちゃんとできる。噛むことで消化酵素がちゃんと作用する。ゆっくり噛むことで摂取エネルギーが少なくても満足感がある、といういいサイクルが生まれるといいと思います。

そういう意味では、16時間ダイエットとか短い時間のファスティングは、理にかなっている部分があります。個人的には5日など比較的長いファスティングよりも、16時間などの短い期間のダイエットがおすすめです。

まとめ

今回の記事では、おなかの健康にファスティングが与える影響について、千葉・流山市の南流山内視鏡おなかクリニック院長の、前田孝文先生にお話を伺いました。前田先生からは、「モチリン」「オートファジー」で体の調子を整えるだけではなく、「正しい食生活を送るきっかけ」という意味でも価値があるということを教えていただきました。

皆さんも、まずは16時間や1日半など手軽な期間のファスティングを行い、正しい生活習慣を送るきっかけを体験してみてはいかがでしょうか?

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