腸はわたしたちが食べたものを消化し、水や栄養を吸収するはたらきをもっています。
食べ物はわたしたちが美味しいと感じるように細菌やウイルスにとっても美味しい栄養源なので、普段から感染予防に気を付けていたとしても微生物が付着した食べ物をたべてしまうかもしれません。
しかしながら、身体には免疫機能というものが備わっており、外敵からわたしたちを常に守ってくれています。
この免疫機能の精度を高めるのに腸内細菌叢(腸内フローラ)が密接に関係していることはご存知でしょうか。
今回は免疫機能と腸内環境の関係性についてお話していきたいと思います。この記事を読めば腸内環境についてや、免疫力を高める方法について知ることができるでしょう。
ぜひ最後までご覧ください。
免疫と腸の関係性
人には身体の外から入ってきた外敵である抗原といわれる菌やウイルスなどを「自分の一部であるもの」と「そうでないもの」に区別する機能が備わっています。
免疫には免疫細胞という組織が関わっており、外部からの侵入者であると判断した場合には攻撃し、鎮圧します。
また、一度入ってきた外敵を記憶しておくことで再度身体の中に入ってきた際にすぐに対応できるよう対策してくれます。免疫細胞たちはこれらを身体の中で繰り返すことでわたしたちを外敵から守ってくれているのです。
獲得免疫と自然免疫について
免疫細胞は次のようなものがあります。
樹状細胞
T細胞
B細胞 など
これらの免疫細胞たちは侵入してきた異物を外敵と識別し攻撃を行います。
病原菌に対して穴をあけたり、溶かしたり、病原菌そのものを食べてしまうなどを行います。
このような免疫反応を「自然免疫」といいます。
自然免疫は未知の病原菌が侵入してきた際にいち早く反応し外敵を駆除するようはたらいてくれますが、同じ病原菌に何度も感染したとしても免疫力が強くなることはありません。
しかしながら、一度入り込んできた病原菌をある細胞が記憶しておき、再び病原菌が侵入してきたとしてもすみやかに排除するようなシステムがあります。
これを「獲得免疫」といいます。
獲得免疫は自然免疫と比べると未知の外敵への反応性は劣りますが、2回目以降の感染に対してはとても効果的に作用してくれます。
細胞内をキレイにすることで免疫力向上
わたしたちの細胞の中には私たちが生きていくためのエネルギーを生み出してくれる”ミトコンドリア”というものが存在しています。
日々の活動に大きくかかわっているミトコンドリアですが、細胞内がキレイな状態でないとうまくはたらくことができません。
食生活によって摂取された栄養は消化吸収されて分解、合成を繰り返して身体に必要な栄養分へと変化していくのですが、この過程で不必要な物質もつくられることがあります。
こうした物質が細胞内に溜まっていると細胞内にゴミが溜まった状態になってしまい、ミトコンドリアが正常に機能しなくなってしまうのです。
エネルギーは免疫細胞が行う免疫反応にも使われますので、エネルギー不足となってしまえば当然免疫力は低下してしまいます。免疫力を向上させるにはこうした細胞内のゴミ掃除を行うことで改善が期待できるでしょう。
腸と免疫
口などから入り込んだ細菌やウイルスの多くは唾液や胃酸によって死んでしまいますが、中には死なないまま腸へと到達するものもいます。
腸の粘膜では免疫物質を分泌したり、腸に免疫器官が存在するなど外敵を排除する機能が数多く備わっています。
また、腸内には免疫細胞がたくさん集まっており、侵入してきた病原菌は”腸管免疫”により除去され、無力化されていきます。これらの腸にある免疫機能のことを「腸管免疫」とよんでいます。
免疫細胞のおよそ70%が腸内に集まっているといわれており、腸内環境と免疫力というのは密接に関係しています。腸内環境が悪化してしまえばその分免疫力は低下する可能性があるので、腸内環境を日頃から整えることは免疫力を強化してくれるでしょう。
腸内環境が悪化することによるその他の影響
腸内環境が悪化してしまうと免疫力の低下につながってしまいますが、腸内環境は生活習慣病にも大きく関係していることが細菌の研究でも判明しています。
腸内環境が悪化すると免疫力の低下以外にどんなことがおこるか解説していきます。
精神的な不調
腸内では食べ物から栄養分を吸収してトリプトファンというアミノ酸が生み出されます。このトリプトファンには”セロトニン”や”メラトニン”といった物質に変換されますが、この2つの物質は私たちの精神的な変動に大きく関与しています。
セロトニンはストレス耐性へ効果があるといわれており、うつ病の治療にもセロトニン量を増やすような薬が使用されるほど注目されています。
メラトニンはわたしたちの睡眠をつかさどる物質のひとつです。これらの物質がうまくつくり出されなくなることで、メンタル面での不調が起こる可能性があるでしょう。
認知症リスクの向上
国立長寿医療研究センター・佐治直樹氏らによると、日本の高齢者において、腸内細菌の組成と認知症が深く関連している可能性があることが判明したという研究発表がなされました。
発表の中では腸内細菌のうちの一つである「バクテロイデス」という菌について話されており、認知症患者ではバクテロイデスの数が少ないことがほとんどであるといわれています。バクテロイデスは腸内に日和見菌として数多く生息しています。
バクテロイデス自体が認知症の原因であることはまだわかっていませんが、少なくとも認知症患者の大半がバクテロイデスの数が少ない=腸内環境が悪化していることが予想できます。
また、腸内が悪化することにより起こりうる生活習慣病は認知症の発症リスクを高める要因であるといわれていますので腸内環境を整えることは認知症の予防になりうるでしょう。
腸内環境を整えるためには?
腸内の環境が悪いことで生活習慣病をはじめ、さまざまな悪影響が引き起こされることについてお話ししてきましたが、腸内環境を整えておけばこのような症状の予防が期待できるともいえるでしょう。腸内環境を整える方法としては、次のようなものがあります。
食物繊維と摂る
食物繊維を多くとることで便秘の改善につながります。
便には身体の毒素や老廃物が含まれているため、便秘することによりこうした老廃物たちが体内のとどまってしまいます。
また、食物繊維を摂取することで悪玉菌の減少が期待できますので、腸内はより良い環境へと近づいていきます。
酵素を多く含んだものを摂る
酵素には食べ物の消化を助ける消化酵素と毒素や老廃物の代謝をサポートする代謝酵素があります。
酵素が身体の中でつくられる量には限りがあり、加齢によっても減少することがわかっているため、食べ物などから酵素を摂取することはとても重要です。
酵素を摂取することはわたしたちが生きていく上で必要不可欠であるといえるでしょう。
今現在のわたしたちの食事環境では栄養素が足りてないことが多いため、酵素、ミネラル、ビタミンなど「身体によいもの」を多く取り入れることで腸内環境も良質なものとなり、感染予防や認知症予防、生活習慣病予防へとつながります。
低体温の改善
体温が低いと免疫力が低下したり、酵素がうまくはたらかなくなってしまいます。
酵素は37度~40度ほどが良い環境であるといわれているため、毎日湯船につかったり、湯たんぽを使うなど身体を冷やさないように工夫するのが良いでしょう。風邪を引いたら身体を温めて休むとは昔からよくいわれており、温めることで免疫力アップにつながりますし、酵素もはたらきやすくなるでしょう。
乳製品を摂らない方がおすすめ
牛乳は優秀なたんぱく質やカルシウムの摂取源として身体に良いといわれていますが、多くとりすぎることでかえって腸内環境の悪化につながる可能性も考えられます。
牛乳などの乳製品には”乳糖”が多く含まれていることがほとんどですが、わたしたちの体内には乳糖を消化する酵素がそこまで多くありません。
乳糖が未消化のまま腸へ達してしまうことで、腸の粘膜のはたらきを妨げてしまったり、炎症を起こすおそれがあります。乳糖不耐症の方は無理せず控えた方が良いでしょう。
まとめ
新谷弘実腸管免疫や腸内細菌がもたらす免疫機能、腸内環境を整える方法についてお話しさせていただきましたが、いかがでしたでしょうか。
腸内環境を良い状態のまま保つことで免疫力アップにつながり、さらには生活習慣病予防などさまざまな恩恵が受けられることでしょう。
【出典】
新谷弘実(2005)「病気にならない生き方」サンマーク出版
新谷弘実(2009)「免疫力を高める生き方」マガジンハウス
新谷弘実(2011)「誰でもスグできる! 自然免疫力をぐんぐん高める 200%の基本ワザ!!!」日東書院
新谷弘実(2015)「認知症がイヤなら『腸』を鍛えなさい 」SBクリエイティブ”